Jupyter Notebook を Markdown に変換する:中身を残し、JSON の器を捨てる
ノートブックは、ひとつのファイル名を共有する二つの文書です。ひとつはあなたが書いたもの——見出し、説明、コード、論点を成立させた実行結果。もうひとつは、それを収めるために形式が用意した JSON の器です。.ipynb をテキストエディタで開いて見えるのは器のほうで、本文は一行ごとに別々の文字列に分解され、セルごとに "execution_count": 7 がぶら下がり、空の "metadata": {} があちこちに散らばり、その真ん中あたりに 4 分の 1 メガバイトの base64 が埋まっています。描画すれば小さな散布図が一枚出てくるだけのものです。
Markdown への変換は、その器を捨てて文書のほうを残す作業です。markdown セルはもともと Markdown なので、そのまま通ります。コードセルはカーネルの言語を付けたフェンス付きコードブロックになります。これはあらゆるモデル、あらゆる README、あらゆる静的サイトジェネレーターがすでに理解している形です。上に .ipynb をドロップすれば、変換はこのブラウザタブの中で完結します。ファイルがアップロードされることはありません。
容量はどこに溜まっているのか
ノートブックが大きいのはコードのせいだと思われがちですが、まずそうではありません。容量は次の四か所に、この順で溜まります。
- base64 の画像出力。
plt.show()は毎回、描画された PNG を base64 のテキストとしてファイルに書き込みます。図一枚でだいたい 200〜400 KB の文字数です。図が十数枚あるノートブックは、中身のほとんどが図ということになります。テキストとして読む人にとって、その文字列には何の意味もありません。 - データフレームの HTML 表現。Pandas は同じ結果に対して
text/plainとtext/htmlの両方を出します。HTML 版はインラインスタイルと、セルごとにタグを持つ<table>を抱えているので、まったく同じことを言うのにプレーン版の二十倍の大きさになることがあります。 - プログレスバーのコマ。tqdm のループは更新のたびに新しい行を書き、あいだを復帰文字で区切ります。結果として、画面上では一度しか表示されなかったバーの写しが数百個ファイルに残ります。
- セルごとのメタデータ。ひとつずつ見れば些細ですが、まとめると話が変わります。セル id、実行回数、折りたたみフラグ、空のメタデータオブジェクトが数百セル分積み上がります。
上の変換はこれらを一つずつ処理します。メディアのペイロードは個数を数えたうえで一行のプレースホルダーに置き換えられるので、どこに図があったかは残ります。結果がプレーンテキストと HTML の両方を持つ場合はプレーンテキストを採ります。復帰文字の連なりはその行の最終状態に畳まれます。メタデータは丸ごと落とします。何をどれだけ削ったかはツールが報告するので、削減量は主張ではなく目に見える数字になります。
言語付きフェンスが見た目以上に効く理由
Markdown がノートブックに対して行う最も有用なことは、本文とコードの境界を明示的に印づけることです。生の JSON では、その境界は内容の数行上にある "cell_type" フィールドとしてしか存在しません。雑に平坦化すると説明とそれが説明しているコードが地続きになり、読み手は——人間であれモデルであれ——構文だけを頼りにどちらがどちらかを推測することになります。
言語を付けたフェンスはその推測を不要にします。同時にカーネルの言語を先へ運びます。変換器はノートブックのメタデータから language_info を読み、なければ kernelspec に戻るので、R や Julia のノートブックが黙って Python 扱いされることはありません。出力はそれを生んだセルの下に言語指定のないフェンスとして置かれ、頭に素っ気ない Output: の行が付きます。因果関係は見えたまま、Markdown に存在しない記法をでっち上げずに済みます。
トレースバックは残す価値がある
エラー出力もついでに削ぎ落としたくなりますが、たいていそれは判断を誤っています。ノートブックをモデルに渡して「このセルはなぜ失敗するのか」と尋ねるなら、トレースバックこそが問いそのものです。生のトレースバックが読みにくいのは内容のせいではなく、IPython がかぶせる ANSI のカラーコードのせいです。端末では色として描画されるエスケープシーケンスが、それ以外の場所では ESC[0;31m のような文字化けになります。
このシーケンスは取り除き、トレースバックの本文は残します。長いものは末尾ではなく中央から詰めます。深いスタックで役に立つのは最初の数フレームと最後の数フレームで、あいだの二百行のライブラリ内部は、そもそも読み飛ばすところだからです。
ipynb を Markdown 変換してリポジトリのダンプに載せる
同じ変換が、このサイトの GitHub・GitLab・ローカルフォルダーのツールの内側でも動いています。リポジトリの中で .ipynb を選ぶと、JSON の壁ではなく読めるセルとして出力に載ります。これは聞こえより大きな違いです。データサイエンスのリポジトリでは実際の思考が書かれているのはたいていノートブックのほうで、これまではその出力を使いものにするために外さざるをえないファイルでした。
その文脈では出力の上限がこのページより厳しくなります。リポジトリのダンプはモデルに渡すコンテキストであり、セル出力はトークンあたりの価値がいちばん低い部分だからです。変換後のテキストにはどれだけ削ったかの注記が入るので、黙って消えるものはありません。
古いノートブックもそのまま読める
フォーマットのバージョン 4 は、セルをトップレベルの cells 配列に置きます。2010 年代前半の公開リポジトリにいまも散らばっているバージョン 3 は、セルを worksheets の中に一段深く入れ、ソースのフィールド名も input で、source ではありません。どちらの形も読みます。バージョン 3 が pyout という出力タイプで表していたもの、つまりバージョン 4 でいう execute_result についても同様です。
意図的にやらないことが二つあります。ノートブックのウィジェット——ipywidgets に支えられた対話的なスライダーやプロット——は状態を別のメタデータブロックに持っており、テキストにすると有用なものは何も出てきません。そこに何かがあったことはプレースホルダーが伝えます。もうひとつ、セルの実行順はファイルに現れたとおりに保ち、実行回数で並べ替えません。ノートブックを読む順序は、それが書かれた順序だからです。
何もアップロードされない
ノートブックには、本人が忘れているものが残りがちです。デバッグ中にセルへ貼った API キー、データベースの接続文字列、結合を確かめるために印字した本番データの一部。ここでの変換はこのタブの JavaScript が行います。アップロードの工程はなく、サーバー側の複製もなく、あとから削除を依頼する必要もありません。タブを閉じればそれで終わりです。
Markdown ではなくプレーンテキストが欲しい場合——フェンスも構造もいらず、文章とコードだけが欲しい場合——はノートブックをテキストに変換するツールがそれを行います。選択中のファイルはそのまま引き継がれます。